子どもの創作音楽劇団「わぉ!」
劇団だけど、劇団じゃない
子どもたちが
生きる力を育む場所です
人っておもしろい。
ちがうってワクワクする。
わぉ!では、3歳から中学校3年生までの子どもたちが一緒に活動しています。
みんなで意見を出しあい、いちから協力してさまざまなものやコトを創っていきます。
子どもたちは年齢だけではなく、学校もそれぞれ。これまでに経験したこと、感じてきたこと、考えてきたことがちがえば、価値観もみんなそれぞれ。
自分とちがう価値観のメンバーは、ものごとの捉え方がちがう、出てくる意見もちがう。 わぉ!と驚くような、自分にはなかった新たな考えにたくさん出逢います。
それを『おもしろい』と思うことができるか。ここが重要なポイントです。
わぉ!の子どもたちは、どんな意見も目をキラキラさせ、身体は前のめりになり、仲間の意見を聴きます。「自分とはちがう意見を知る」ことが、「よりおもしろい作品創りにつながる」ということを、子どもたちはこれまで、何度も経験してきたからです。
また、「なにを言っても聴いてもらえる。受けとめてもらえる」そんな安心感に包まれた中では、子どもは、どんどん自分の意見を言いたくなります。
表現が苦手な子どもも、「話してみようかな」という気持ちになります。
これがわぉ!での、ワクワクのはじまりです。
学校や家庭では味わえないワクワク感と出会う場所。新しい仲間との出会いの場であり、新しい自分発見の場でもある、子どもたちにとってのサード・プレイス。
それが、わぉ!です。
わぉ!で、仲間と一緒に、試行錯誤しながらもやり遂げた経験。
そしていろんな意見を聴きながら、柔軟に物事を変化させ、プラスに代えてきた経験。
互いを認め合うことで自分らしくのびやかにありながらも、支えあうことで強くしなやかに社会の中で生きていく力。それをわぉ!では【共生力】と呼んでいます。
対話を繰り返し、さまざまなものを創る中で、わぉ!の子どもたちは、これらの力を蓄えてきました。その力が子どもたちをいきいきと輝かせ、将来、自分らしい人生を歩む力へとつながるのです。
『人』っておもしろい。『ちがう』ってワクワクする。
そんな経験を、子どもたちにはたくさんしてほしいと考えています。
なぜ「創作音楽劇団」なの?
劇にはさまざまな要素が含まれています。演じる人、道具を動かす人、音や音楽を奏でる人。それはまるで会社。いろんな部署があり、それぞれが得意な部署で仕事をし、全員でミッションをクリアしていく。 わぉ!も同じです。
劇団と聞くと、華やかな舞台をイメージしがちです。「お客さまに見てもらう」ための本番があり、その本番を成功させるためにオーディションがあり、何時間も練習を重ねる。
しかし、わぉ!の劇は「劇を見せる」ことを重視していません。
大事なのは、「劇を創る」ことそのものです。
つくる時間は、学びの宝庫です。「さまざまな子が集まり一つの作品を創り上げる」という過程で、相手を観察し、たくさんの意見を交わし、互いの言葉や感情を受け取り、【エンパシー】と【対話力】を磨いていきます。
あまり聞き慣れない言葉かもしれませんが、エンパシーとは、他の人の感情や経験をその人になり切って想像する力のこと。劇の登場人物の気持ちや、みんなとストーリーを考え話し合う中で、子どもたちはエンパシーの力を鍛えています。
つくる過程にこそ、人を知り、認め合うチャンスが、たくさん詰まっているのです。
※よく似た言葉に「シンパシー」がありますが、シンパシーとは相手に同情や共感をもつ感情のことで、「反射的な心の動き」を示し、自分の中から自然とでてくる感情のことです。それに対して、エンパシーは自分と違う考えの人が、どう考えているかを「意識して想像する」ことを示し、努力して得る知的な力を指します。
そして、劇をつくる過程においてもっとも欠かせないのが、対話。
対話は、会話とは違います。
仲のいい人たちと、一体感や共有感をもつためのコミュニケーションが会話。それに対して、「自分の考えを伝えながら、相手の違う考えを受け取って、新しい第3の考えを生み出す」という、とてもクリエイティブな活動が対話です。
自分とは違う考えや価値観を認めない、自分の考えは絶対!と思っている人には難しいコミュニケーションでもあります。
価値観をすり合わせる過程で、潔く自分のものの見方を変えたり、その変化を喜びにしたりすることができれば、新しい第3の創造的なアイディアを見出すことができる。
お互いが成長し、さらに豊かな人間関係を作ることができるのです。
わぉ!の子どもたちは「ちがうこと」との出会いを楽しんでいます。だからこそ音楽劇の発表の場で得るものは、単なる達成感ではなく、人間関係を自ら構築し、共創できた喜び、なのです。
エンパシーや対話力を磨く経験は、多様性の時代を生きる子どもたちには欠かせない経験になると考えています。
わぉ!では、「劇創作」の他、身体・言葉・造形・音楽の表現に取り組む「表現ひろば」、「ゲームひろば」、「子どもひろば」、「絵本創作」、計5つのプログラムを行っています。そこでは『多様性に触れる経験』『対話する機会を多く持つこと』を大切にしています。
さまざまな特性の子どもたち同士が向き合い、一つのことに取り組むことによって、違うことのおもしろさそのものを知ることができます。同じ目的に向かって、自分の意見を伝え、人の意見を受け取ることによって、違いを大切にしながら、それを柔軟に発展させていく創造のおもしろさを知ることができます。
わぉ!が大切にしている3つのこと
わぉ!が大切にしている三つのこと。それは「考え、やり遂げる力」「どんなこともプラスにできる力」「子どもが子どもを育てる、育ちあう」ということです。
考え、やり遂げる力
わぉ!のプログラムは、準備→メインの活動→片付け→ふりかえり、この流れをすべて子どもたちが主体で行います。ここでのキーワードは【主体性】。私たち大人は、注意しない、止めない、手を出さないが大前提です。
プログラムを行うにあたって、準備や片付けを大人が先頭にたって指示すれば時間通りスムーズに進みます。その方が親御さんにとっても安心なのかもしれません。でも、それは私たち大人の都合。時間を優先しているだけにすぎません。集団行動をするために一律の人間を育てるといったかつての価値観の中では、予定通りにプログラムをこなす作業が何より大事なことだったのかもしれません。しかし、それでは主体性が失われてしまう。
だからこそ、わぉ!では子どもたちが、子どもたち自身で「やり遂げること」を重視しています。やり遂げるまで見守る。もちろん、子どもたち主体だと、なんだかわちゃわちゃとして見え、大人からすれば大丈夫!?と不安になることも。初めて見学に来られた方には、驚かれることもしばしば…。
でも、見守る。
「やり遂げた」という経験が子どもにとって、何よりも重要だからです。
実際、劇の発表会では子どもがうまくセリフを言えずに止まってしまうこともあります。そんな場面でも大人は手を出さない。そうすると、周りの子たちが声をかけたり、助けたり、それぞれが主体性をもって行動することで、劇は進行し、子どもたちだけでちゃんと終えることができるのです。
何があってもあきらめずに、最初から最後まで、やり遂げる力。やり遂げた経験の積み重ねが、やり遂げる力をさらに強くする。その力が、折れにくい心、どんなこともプラスにできる力(レリジェンス)にもつながっていくのです。
どんなこともプラスにできる力
これが生きるためにもっとも必要な力。大事なのは、どんな状況でも楽しく、プラスの方向へ発想転換できる柔軟性。しなやかさともいえます。
わぉ!の子どもたちは、小さいことにこだわりません。
誰かが自分とちがう意見を言えば、「なるほど!そういう意見もあるのか」と、すぐに受け入れる。意見を取り入れながら、自分の考えを少し変えてみたり、相手の意見の方が面白い!と思ったら、それに乗っかったり。劇をつくるためには、どうするのが一番おもしろいか、そんなことを考えます。時には多数決をとったり、プレゼンしたりすることも。そして、決まれば、どの子もすぐにその方向へと思考が向かいます。
だから、わぉ!ではケンカが起きません。
「ずるい」といった言葉も、出ません。
このことについて、子どもたちと話をしたことがあります。
<子どもたちとの会話>
A「誰かがやっていることを自分ができなかったとき、学校とかでは「ずるい」「私も
やりたかった」という言葉をよく聞くけれど、なんで、わぉ!ではそれがないんやろ?」
B「そもそも「ずるい」って、なんで思うんやろ?」
C「それって誰かに対して言ってる言葉やんな?」
D「誰かに何かしてもらおうとして言ってる言葉や」
E「自分はじっとしていて、やってもらうのを待ってる感じがする」
F「自分のことしか見えてないな」
楽「じゃあもし、わぉ!で、人がやってて、自分もやりたかったらどうする?」
A「やればいい」
楽「できなかったら?」
B「できる方法を考えればいい」
楽「時間がなくなったら?」
C「今度やればいい」
もしかすると、短時間でさまざまなものをつくってきた経験のある子どもたちは、悩んだり、後悔したりするのは時間のムダだと思っているのかもしれません。人との「ちがい」を楽しむ子どもたちには、私たち大人世代がもつ「みんなと同じでないといけない!」といった横並び感覚がないのかもしれません。人と自分とを比べても意味のないこと。人と同じようにしたいなら、自分もすればいい、できないなら違う方法を考えればいい。止まることなく前へ前へと、思考が進む。実はすごくシンプルなことなのに、簡単にはできない。わぉ!の子どもたちは、対話と創造を重ねる経験を通して、そうした思考の習慣が自然と身についているのです。
生きていれば、思いどおりにならないこと、予想もしないトラブルが起きることもたくさんあります。そんなときに、どう考えるか、どう動くか。逆境をはね返す力を備えていれば、どんな困難も乗り越えられるのです。
子どもが子どもを育てる、育ちあう
この大きさはいつも痛感しています。
よく、大きい子は小さい子の「面倒を見る」「世話をする」という言葉を使いますが、わぉ!の認識はちがいます。【ギブ&テイク】=【相互依存】の関係。自分にあるものは与え、ないものは受け取る。つまり、できることはやる、できないことは助けてもらうということです。新しい子が入ってくれば、新しい視点だから気づけることを言ってくれる。前からいる子は、知っていることを教えることができる。年齢の大きい小さいは関係ありません。
「それぞれが今できることをやればいい」というのがわぉ!です。
小学生たちは、会をまとめたり、幼児の想いを聴き出したり、それをまとめたり、会の運営について考えたり、仕切ったり。幼児たちは、柔らかい頭脳でさまざまなことを発想し、おもしろいアイディアを出したります。そんなアイディアを形にするのも、小学生たちの仕事。形にする方法を考え、劇づくりにつなげていくのです。
多様性の中で活動する体験を通して対話力を磨き、相互依存の関係性をつくることが重要だと考えています。そして、その繰り返しの中で、自分の得意なこと、好きなことを子ども自身が見つける。集団での自分の役割も自然と見えてくる。自立しているからこそギブ&テイクが成立する。
わぉ!が子どもを育てるのではなく、子ども自身が子ども同士の中で育ちあい、成長していくのです。
わぉ!の約束
「子どもの成長を信じて 見守る 」
育てるのではなく、育つ。教えるのではなく、学ぶ。
わぉ!の主体はいつも子ども。大人はあくまでもサポートです。私たちわぉ!の大人は、「子どもの成長を信じて見守る」という姿勢を大切にしています。大人が前に立って誘導することはしませんが、もちろん放置もしません。参加者の一人として加わりながら、子どもたちが安心して発言できる、行動を起こせる環境づくりをすることが私たち大人の役割です。
たとえば、対話創作プログラムの中では、誰かの意見に対して、ほかの誰かからネガティブな声が上がることもあるでしょう。でもそれは、絶好のチャンス。まずは受け止めてみて、糧として吸収するのか、もしくは聞き流すべきものとするのか、“自分自身で選ぶ”という貴重な経験ができる良い機会なのです。ネガティブな意見に対して反射的に一喜一憂する、感情を無視する、避けるのではなく、内容を理解した上で、反応は自分が選べるということを知る。そうすることで、人と共に生きる中で自分をパワーアップさせる「術」を身につけることができるのです。
しかし、これは最初から誰もができることではありません。
相手の意見や思いをしっかり聴けていたのか、その上で自分の意見や思いを丁寧に話せていたのか、ちがいを理解し、大切にした上での新しい意見だったのかなど、子どもたちが自身の発言と思考を客観的に整理できるよう、大人が少し手伝う。そして、気づきの経験をどんな行動にかえられているか、さらに静かに見守ります。
「子どもの成長を信じて見守る」。これは親御さんにもいえることです。子どもたちとちゃんと距離をとって見守る。子どもを大切に思うがゆえ、心配になってあれこれ言っちゃう、やっちゃうは親御さんとして当然のこと。子育ては不安だらけです。だからこそ、私たちと一緒に子どもの成長を信じて見守りましょう。子どもにとって親は、世界のすべてといっても過言ではないほど影響絶大です。親の自立が、子どもの自立へとつながります。子どもと一緒に親も、私たち大人も成長するのです。
わぉ!は、子どもと親双方の自立をサポートする「親子育ち支援」と、子どもが【共生力】を培い成長する過程をサポートする「人育ち支援」を通じて、子どもたちが自分らしくのびのびと、しなやかに社会生活を送れる未来をつくりたいと考えています。
"自分らしさ"で みんな と ひとつ に
「"自分らしさ"で みんなとひとつに」これは、わぉ!のキーフレーズです。
自分らしさ=自立、みんなとひとつ=相互依存 を表しています。
これまでお話してきたように、子どもも大人もまずは自立すること。ひとり一人が自立しているからこそ、助け合える。
これはビジネスの場においてだけではありません。普段の生活、学校生活、社会生活、家族関係、恋愛関係、友だち関係、あらゆる人間関係においてとても大切なことです。
予期しなかったことが次々に起きる現代を、一人で生き抜いていくには限界があります。多様性の中でそれぞれの特性を生かしながらも、社会変化に柔軟に対応し、周りの人たちと助け合い生きていく。 この考えに立つことが大切です。
助けることもあれば、助けられることもある。双方の喜びを知っている人は何より強い。
自分らしく生きるということは、決して自分のためだけではないということ、誰かの役に立ち、社会の役に立つのだということを知っていてほしい。
「"自分らしさ"で みんなとひとつに」 ここには、そんな思いが込められています。