わぉ!のあゆみ
2011年の誕生から これまでの軌跡
人って面白い!生きるってすごい!
私の脳に衝撃が走った日。
一度目。
私の前にいたのは、私が担任をする支援学級の子どもたち。
自分の想いを身体で、表情で、声で、ストレートに表現する子どもたち。
それは計算されたものではなく、作られたものでもなく、そのままの心の声。
その透き通った彼らの想いに衝撃を受け、心を打たれました。
純粋に「生きることの強さ」を感じた瞬間でした。
二度目。
まだ生まれて数カ月。ぎょろぎょろと動く瞳。
手足を常に動かし、時々大きな鳴き声を上げ、自分の想いをアピールする息子。
大人の何倍も酸素を吸っているように、大人の何倍も太陽の光を吸収しているように、力強さを感じました。
「生きる」「生きている」。
これをおもいっきり感じたい。そしておもいっきり楽しみたい。
子どもたちにも感じてほしい。楽しんでほしい。
わぉ!の活動をスタートするきっかけとなった想いです。
2010年 はじめての創作音楽劇
長きにわたり勤めていた小学校を退職し、長男を出産。
「やりたい!」と思っていたことがいろいろあった中、まずはじめたのは参加型コンサートの開催でした。
地域の子どもから大人、おばあちゃんおじいちゃんまでが触れ合う機会をつくりたい。そんな想いから、音大以来の友人と二人で参加型コンサート『楽宴』をスタートしました。
そして『楽宴』5周年のコンサートを迎えようというときに、周年を迎える団体に、箕面市が大きなステージを貸してくださる、というお話をいただきました。
「ぜひやってみよう!」
しかし、大ホールでコンサートなら、そこそこボリュームのあるプログラムにしなければならない。そこで、楽器や歌のコンサートに加え、近所の大人・子どもに声をかけ、一緒にコンサートを盛り上げてもらうことにしました。
みんなで合奏をするのか、歌を歌うのか、踊るのか、いろいろ悩みましたが、『劇なら、みんな自分の得意なことで参加できる』というところから、劇に挑戦してみることにしました。劇は、舞台に立つ役者だけでなく、裏方である、大道具・音響・照明といった役割もあります。子どもも大人も、自分がやってみたいことで参加し、みんなでひとつの音楽劇を創り上げ、発表しました。わぉ!の原型です。
みんなでひとつの劇を創り上げる過程では、子どもも大人もそれぞれの価値観で、いろんな意見を出します。
ひとつのものを創り上げるには、話し合いも何度も繰り返し行います。
そこで得る新たな考え・アイデア。
そして、劇はどんどんおもしろいものになっていくのです。
創る過程で問題をひとつずつクリアしていくたびに、強まる仲間との絆。
試行錯誤しながら、周りの人たちとの繋がりを深めていく経験を、子どもたちには、もっとたくさんしてほしい。そう思い、第一回目の舞台が終了した後も、劇づくりを続けていくことにしました。
2011年 わぉ!スタート
近所の子ども・大人と共に創り上げた音楽劇を二度経験しながら、感じたことがありました。それは、さまざまな要素を含む『劇』に、子どもたちが、自分の挑戦したいことをもっと明確に感じ、取り組むことができれば、自分自身のことを、より深く知るきっかけになるのではないか。
音大を卒業して、自分の人生の目標が長く見えなかった私は、子どもたちにははやくから自分自身とたくさん向き合って生きてほしいという想いがありました。
さまざまな要素を含む『劇』は、私のそんな想いにも繋がり、子どもたちに『劇』にもっと深く取り組ませたい。
そう思い、劇団をスタート。
試行錯誤しながら、子どもたちが、1年間かけて『劇』というものに取り組むためのプログラムを、作成しました。
2015年 わぉ!子どものお城完成
子どもたちが、「やってみたい!」と思ったことに、すぐ挑戦できる場として箕面市に『わぉ!子どものお城』を築城。子どもたちが自由に、のびのびと過ごせる安心の場所です。
2015年までは、劇団も近隣の公共施設をお借りし、開催していましたが、その日その時、子どもたちからどんな発想が生まれるかわからないため、毎回大量の荷物を準備。
しかし、「あれをもってくればよかった・・・」となることもしばしば。
そんなストレスをなくすため、子どもたちが、いまやりたい!いまつくりたい!と思うものを、その場で材料を用意し、取り組める場所をつくりました。
ここでは子どもたちがやってはいけないこと、行ってはいけない場所はありません。
自分で考え行動できる場所です。
そして、やりたいことをおもいっきりできる場所。
それが、『わぉ!子どものお城』です。
10年間で変化してきたわぉ!
自分と向き合うことはとてもスムーズにできるようになった子どもたち。劇の内容も、年々濃くなっていきました。そして、徐々に大人の手を離れ、子どもが主体となり、劇創作を行うことができるようになっていきました。
一方で、「自分がやりたいことだけをとことんやりたい」。そんな子どもの強い気持ちが目立つようになってきました。
役者を育てる劇団ならば、自分と向き合い、自分を磨くということに専念すればよいのです。
しかし、わぉ!は、『劇をみせる劇団』ではなく、『劇を創る劇団』です。
設立当初から、ひとりひとり「ちがう」ということを認め合い、受け入れあい、協力しあいながら劇を創る、ということを一番大切なテーマとして掲げてきました。
劇創作をする上で、『自分がやりたいことだけをやる』という姿勢では、全体はまとまっていきません。
社会でも同じです。
それぞれが好きなことだけをやっていては、関わるメンバーの気持ちに偏りができ、団結していくのは難しくなります。
全員でひとつの作品を創り上げるには、協力し合うことは必須です。
目の前の相手のことも、理解する力がなければ、おもしろい劇はできません。
子どもたちには、『全員で創り上げる輪の中で、自分らしさを表現する』、ということを経験してほしいと思いました。
そこで、年間プログラムも、『表現』に重きを置いた内容から、『異年齢での対話』に重きを置いた内容の時間が年々増えていきました。
2018年から取り入れた、子どもがイベントを企画し、運営も子どもたちが行う、『子どもひろば』や、昨年から取り入れた、少人数で絵本を創り表現する、『絵本創作・絵本表現』や、異年齢の仲間で楽しめるゲームを考える『ゲームひろば』は、子どもたちの対話力を高めるためにできたプログラムです。
対話する力、相手を感じる力が備わってきた子どもたちは、自分とちがう価値観の相手の意見に耳を傾けることで、自分自身の価値観を広げることができたり、相手に合わせ、自分の考えを柔軟に変化させることができたりするようになりました。
すると互いに相手を認め、理解しようという気持ちが生まれ、子どもたちにとって、わぉ!はさらに『安心できる場所』となり、自分の考えや想いを、ストレートに表現できる子どもが増えてきました。
2021年 10回目の発表会
毎年、子どもたちが100を超える意見からひとつのテーマにしぼり、そのテーマに沿ったストーリーを創っていきます。
今年は10回目。
テーマは『子どもだけになってしまった世界』。
私たち大人にとっては、重いテーマです。
振り返ると、子どもたちに教えられ続けた10年でした。
社会の変化とともに、柔軟な子どもたちは、その変化にも即対応し、いまの世の中をうまく生きていました。
しかし、心の中に、なにか物足りなさを感じている。劇団には、そんな子どもたちが集まるようになってきました。
柔軟な子どもたちと、猛スピードで変化していく社会の間に立ち、右往左往している大人たち。
更に多様性が尊重される世の中で、目の前の子どもに何をどう教えていけばよいのか。悩み続ける大人たち。
大人は、子どもに教える立場でいなければならない。そんな考えからなのか、大人たちの子どもたちを管理する体制が、どんどん強化されてきたように感じます。
「なんでもっと自由にさせてくれないの?」「もっとやってみたいのに!」そんな想いを持つ子も、徐々に、「どうせ大人に言ったって」と、あきらめるようになっていきます。
あらゆる情報が飛び交う中で、脳はたくさん学ぶことができるけれど、心はなんだか満たされない。そんな子どもたちの悩みは、年々増えているように思います。
『子どもだけになってしまった世界』
そんな子どもたちの心の叫びではないかと、ドキッとしてしまいました。
大人が「疲れた」と言葉にすると、どんどん若返り、子どもになってしまう。そして、世の中の大人たちはみんな子どもになり、子どもの好き放題の世界となる。
しかし、しばらく続けると、いろいろ困ったことが起き、やはり大人がいなければ大変、となる。そして大人に感謝する。すると、子どもになった大人は、大人の心を取り戻す。しかし、身体は子どものまま。大人の知恵をもらいながら、一緒に協力して生きていこう、というストーリー。
子どもは「楽しい!」「おもしろい!」と笑っているが、なんとなく笑えない。
10年という節目に、更に子どもたちに考えさせられるテーマの劇を観ることになりそうです。
<ご報告>
2021年4月3日(土)第10回発表会 無事終了いたしました。
その模様は近日、動画にて公開いたします。